目に火の粉が飛び込んだとか、小指の先を切り落としたとか、
大事はそんなことではない。
では、名刀をつくるためなら何でもするのかと問われれば、
おれはそんな問いには答えないだろう。
きっと、その質問が地上の人間のものなら、おれは2.8次元か、そこら辺にいるからだ。
おれは鉄を叩いて刀を取り出すが、人は心を叩いて魂を取り出す。
凸凹を鍛えて、流線型になった魂は、どこへでも飛んでいくだろう。
答えはいつだって地金の中にある。おれは持っていない。
だから来る日も来る日も、日長一日、見つめ続けるのだ。
ずっしりと重い歪んだ鏡面に、福笑いのような自分の顔をじっと眺めていると、
突然その中へ、ゆるりと没入できることがある。
この硬い物質の中は呼吸などせずともよく、柔らかいが頭痛もする。
息苦しいと思えば息苦しいが、忘れてしまえば存外楽だ。だからおれは忘れることとした。
玉虫色に揺らぐ天井を見つめて、
刀に力を加える研究ばかりしている変わり者の大学教授の物理実験を思い出した。
あいつは今も大学だろうか。
キーンと高い耳鳴りの中を、どこまでも泳げ泳げ
やがておれは、鼻の奥がジーンとして、頭がかちわれる瞬間に思い至る。
ふと気づいて、ああ今おれは確かに取り出すべき形に触れていたのだなあと思うのだ。
長男が生まれたとき、おれは病室で、それこそ今世界が生まれたのではないかというような、
けたたましい叫び、命のビッグバンの音を聞いていたんだ。
そう、人は誰だってエネルギー体なのさ。
赤く熱く、ドロドロしたそいつを、おれは鍛えている
自分だけの魂の形を知るために、人は心を叩くのさ
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