2010年5月25日火曜日

幽霊船は実在するのか



もしも心を見ることが出来たなら、多分それは生まれたての銀河のような、混沌とした渦巻きに違いない。


ぐるぐる回る海の潮に、ときどき跳ねる滴が、気持ちなんだと思う。すぐ渇いて忘れてしまう。


ところで君は幽霊船をみたことがあるか。


ぼくはある。小学生3年だったか、4年だったか、アイルランドの西端の島に行ったときのことだ。


それは正に世界の果てといった姿で、いつも曇っていて、海は灰色だった。ときどき嵐が来て、立っているものを何でもなぎ倒して行った。半時間もあれば一周できてしまう陸地には、素朴に積み上げられただけの石塀と、あばらの見える二、三頭の山羊しかいなかった。


丘と言うことすら躊躇する、遠慮がちな地面の膨らみを越えると、なんと巨大な竜の骨があった。真っ白な肋骨が、地面からにゅっとそびえたっているのだ。


ぼくは唖然として、声もあげられなかったが、震えるように指先で触れると、やがてそれは打ち上げられた巨大な帆船の、風化して骨格だけが遺った姿だとわかった。それにしても金属のほとんど使わない、樽木船の木材が、自然の力で漂白され、これほど真っ白になるまでいったいどれだけの時間がかかるのだろう。


ぴたぴたと掌でたたいていると、突然後ろから怒鳴り声が聞こえた。


首をすくめてふりむくと、風船のように腹の出たおやじが、朝からあおっているに違いないギネスに赤らんだ顔をなおさら赤くして、何か叫んでいる。


ぼくははじめ怒られているのかと思ったのだけれど、身振りから見るにどうもそうではないらしい。ついて来い、と言っているように見える。背を向けて歩き出すのに、だまってひょこひょことついて行く。


海風がここちよい。Tシャツが、塩でべとべとになった。


5分も歩くと、奇妙な光景が広がっていた。浜に、巨大な帆船が座礁している。帆はぼろぼろになり、木が腐ってところどころ穴があいていたけれど、ほとんどはそのまま完璧に残っていた。その様子から察するに、きっと中には、何十もの白骨となったイギリス人が、ごろごろ転がっていることだろう。


打ち付ける波が、ぱしゃん、ぱしゃんと、サンダルを叩いた。突然灰色の雲が割れた。一筋の光が差した。それが、幽霊船の甲板を、スポットで照らすのである。ぼくは天使が降りてくるに違いないと思ったのだ…




と、いう記憶がある。あんまり強烈な記憶だから、どうせ夢か何かに違いないと思っていたのだが、最近親に確認したら、本当だったようである。あの幽霊船は17世紀にクロムウェルがアイルランドに攻め入ったときのもので、難破していい気味だからということで、400年もの間、放置状態にされているものだそうである。




それにしても最近、夢に違いないと思っていたものが、現実に経験したものだったとわかるケースが頻発している。事実は小説よりも奇妙なのだ…。






何はともあれ、今日はmyspaceへの音源アップ日である。


『水面』は美しく奇妙な、歌ものの曲だ。存分に楽しんでほしい。



http://www.myspace.com/hemay








水面 作詞:山田龍郎 作曲:林恒平






女になりたい
女に生まれたかった
昼のうちに掃除を済ませ
皿を洗い夕餉を買い


洗濯物を取り込んで
あの人の帰りを待つ
ベッドではたくさん
愛してあげるの
綺麗な身体で
疲れた一日を


私が慰めてあげるの
誰かの愛人になりたい
売春婦もいい


真っ赤なドレスを着て
シャネルの香水を付ける
私はいるだけで
私を必要とする


身体があるだけで
絶望的なほど
人の目が欲しい






燃え上がるビロードのよう
火がつくように欲望して
あなたのお好きなままに
泡の溢れたバスタブで
震える指先で月を蹴る
好きなだけ楽しんだら
捨てるように帰って


私は思った
私は何も欲しくない


愛なんていらない
あなたのこと知らない
私しかいらない
私しか




蝶のように
化粧していたい
蟻のように
働くくらいなら


私なんて
千の蟻にたかられて
もがれ焼かれて
いなくなってしまえば


いいのに












Gandi

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