2010年6月28日月曜日

恐怖を愛する

11歳から20歳まで、緊張を封印していた。

合唱団の、オペレッタの配役を決めるオーディションで。
主役のパートを歌うよう指名されて、私はかなりビビったのだ。
「あおうさん、この音域も出るよね」と先生が言うのに
同じアルトの仲間は「出ます出ます!」と盛り上がっている。
どうしても主役は花形ソプラノから出ることが多いので
こういうとき、アルト陣営は内心おもしろくなかったりするので。

高いラの音。どんなときだって難なく出たはずなのに。
これが自分の声とは思えないくらい、
かすれかすれでツヤのない声しか出なくて。
後にも先にもあんなに情けない思いをしたことはない。

結局、主役ではないほかの役がついたのだけど
くやしくてくやしくて、その日から「緊張」を完全封印することにした。

以降、一度も「あがる」ことがなかったのだが、
それの弊害を知ったのが20歳のときだ。

大学の声楽の先生に、「あなたの歌はかわいくない」と言われ続けた一年間があった。
当初は「んなこと言われたって、人間がかわいくないんだからしょうがないじゃんよ」
と思っていたのだが、さすがにしつこく言われ続けて理由を考えるうちに
それは緊張感のなさからくるものだと気づいた。

緊張しないことは、テストでいい点をとるくらいのことを目的とするレベルでは有効だったのだ。
落ち着きはらっているので、我を失うことなく平常の力は出せる。
だけど、プラスアルファはのぞめない。
「自分を満足させる」ためならともかく、
「人前で演る」前提では、この姿勢は間違っているのである。
自分だけを満足させる歌に魅力があるわけがない。

それから、私は〈緊張〉を取り戻した。
封印するのもすぐできたけど、
気がついてしまえば解除もすんなりできた。

というわけで、最近ライブの始まる直前にはものすごく緊張している。
不安からくる緊張ではなく。
人前で演ってしまう…そのことの重大さを感じる
昂揚からくる緊張。
始まったら息つぎなしで泳ぎ切らなければならない、と思う。
こわい。けれど、気持ちいい。
恐怖の快感。
この快感を、音に出せますように。
音に、出さなくては。
と思って、舞台に立っている。

2 件のコメント:

  1. そうですね、プロ顔負けのボーカリストなのに、全然魅力を感じない、毎回マニュアル通りにタンタンと歌ってこなしてるだけ、緊張感や歌に対する思い入れみたいな物がまるで伝わってこない、このように完成度は高いけど、もう完全に頭打ち(これ以上の進歩や発展は期待できない)してるボーカリストをよくライブで見かけます、完全にお仕事モードでクールにサッサと歌っては次、みたいなね、本人はそんな自分がプロっぽくて気に入ってるかもしれませんが、とんだ勘違いなんですよね
    おっと偉そうにしゃべりすぎましたwww

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  2. BUN-HO!さん
    コメントありがとうございます。
    私が突然段ボールでベースを弾いてた頃の話ですが、蔦木俊二さんが「ライブの前の日は眠れない」と言ってたのに、すごく衝撃を受けました。
    あれだけ長いキャリアでめちゃくちゃ場数を踏んでる人が、そういう緊張感を持ち続けてる。尊敬です。なーんて本人には言いませんでしたけど、ね。

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