2010年9月13日月曜日

カナブンと私

「背中に虫がついてますよ」と言われた。
だれかが取ってくれようとするが、脚が服の繊維にひっかかっているのか取れないらしい。

そいつは背中から肩へよじ登ってきて、腕をくだってきた。
緑色の美しい、カナブンである。
腕を伝い下りて、手の甲に止まる。指先まで行ってはまた戻ったり。
なんだか、なつかれている。

飛んでいこうとしないのは、どこか痛めているのかも?
そのまま手の上を歩かせておく。
だんだんかわいくなってくる。

Y君が「前世のパートナーかもしれないですよ」などと言う。
やめい!ますます情が移るじゃないか。
背中にキスをした。
おとなしい。

「おうちの子になるか?」と訊く。
もちろん無言。

しかし、こういう……野生児的な虫を飼うのって難しそうだなあ。
飼い方、どこかに載っているのかしら?
そういえば前にコクゾウムシを飼おうとして失敗したっけ。
コクゾウムシというのは、米を食べる虫である。
米粒に入りこんだりしている、小さな小さな茶褐色の虫。
それを米びつの中に見つけたとき、ふと飼ってやろうかと思い、
米を少量入れた小びんに入れてみたのだがすぐ死んでしまった。
私が見つけるまではのびのび生きてたのに
飼おうとするや死んでしまうとはなんなんだ、と少し憤慨した。

カナブンはそれから1時間近く、
打ち上げの席でも私の腕の上にいた。
だれかが名前をつけてはと言ったが、それはだめだと思う。
名前をつけたら、本当に好きになってしまう。

カナブンは不意に、羽を広げて飛んでいった。
しばらく高架下の蛍光灯の真下を飛び回っていたそいつに、
同席のみんなも手を振っていた。

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